本の妖精リブラリブラ
『リブラリブラを知っていますか?
それは小さな本の妖精。
本が大好きで、いつも、楽しい本はないかと図書館や書店に探しにやってきます。気に入った本があると、満足するまでその場所に滞在し、本を読んだり、本好きの人間にちょっとした魔法をかけたり…。
リブラリブラがいる図書館や書店は魅力的な本が増え、活気が出てくると言われています。
リブラリブラのちょっとした魔法。それは、どんな魔法でしょうか?
皆さんは、図書館や書店でふと手に取った本が、とても面白かったり、今の自分に必要なことが書かれていたりした経験はありませんか?
それが、リブラリブラの魔法なんです。
リブラリブラは本だけでなく、本好きな人も大好き。
だから、それはリブラリブラから本好きなあなたへのプレゼントかもしれません。
けれど、リブラリブラはとっても気まぐれ。
運よく出会うことができたら幸せですね。』
ここまで、打ち込んで、ふと物音が聞こえた気がして、館内を見回してみる。今は図書館も閉館していて、館内にいるのは私1人。来月の図書だよりのコラムをパソコンに打ち込んでいる。
小さな町の図書館。それが私の今の職場。小さな図書館だから、職員は館長さんと司書の町田さんと私の3人だけだ。
子どもの頃から本が大好きで、いつか本に関わる仕事につきたいと思っていた。その夢が叶ったのは、先月、この町に引っ越してきてから。これから利用することになるだろう町の図書館を、ひやかしがてら見に行った時、町田さんと出会ったのだ。
町田さんは髪が短くて背がスラッと高く、でも笑うとえくぼができるふんわりとした雰囲気の人だった。ベージュのエプロンをつけて、その胸には「リブラリブラ」と刺繍してある。
町田さんは私に笑いかけ、「あら、ちょうど良かった。今、職員を募集しているところなの」と声をかけてきた。なぜ、町田さんが私にそんなことを言ったのか、今でも不思議だ。私は一言も「ここで働きたい」などと言っていないのに。
町田さんに聞いても、
「どうしてか、あの時は、あなたにそれを言わなければいけない気がしたのよね。リブラリブラの魔法かな?」
と、なんとも頼りない答えが返ってくるだけ。
「リブラリブラ」
図書館や書店にやってくる本の妖精。
町田さんお得意の話。コラムに打ち込んでいた話も町田さんから聞いたものだ。
正直、「リブラリブラ」なんて妖精の話は今まで、読んだことも聞いたこともない。だから、私は町田さんの作り話じゃないか、と思っている。
そう言うと、町田さんは可笑しそうに目をくりっとさせながら、「うふふ」と笑う。
「そうそう、図書だよりのコラム、今までは私が書いていたけれど、これからはお願いするわね。そんなに難しく考えなくていいのよ。読んで面白かった本やおすすめしたい本の紹介を書くだけだから。」
町田さんは、そんなことを言って軽やかにベージュのエプロンをとり、帰ってしまった。なんでも、今日は飼っているハムスターを動物病院に連れて行かなければならないらしい。
そうして、私は1人、館内に残され図書だよりのコラムを書いている。
『…私はまだ、リブラリブラに会ったことはありません。でも、もしこの図書館にリブラリブラがいるなら、きっと素敵な本との出会いがたくさんあるはずです。そんな本との出会いをここに記していきたいと思います。』